身体表現性障害の現状 


   身体表現性障害とは、痛みや吐き気、痺れなどの自覚的な身体症状があり、日常生活を妨げられているものの、それを説明するような一般の身体疾患、何らかの薬物の影響、他の精神疾患などが認められず、むしろ心理社会的要因によって説明される障害である。
  DSM-IVは身体化障害と転換性障害、疼痛性障害、心気症、身体醜形障害などを臨床上の便宜から1つに集めている。これらは病因や経過が共通しているわけではない。多数の医療機関を渡り歩く例があり、内科や外科医にとって困難な患者である。患者の強い治療欲求による問題を軽くするためには、患者に対応する医師を1人に集約し、検査などの患者の欲求に部分的に応じながら、信頼関係を結び、身体の症状に精神科的な理由があることを患者が気づくようにし、患者が進んで精神科を受診するようにしていく。 内科学でいえば「膠原病」程度のまとめ方に相当するのであろうか。個々の疾患の診断さえきちんとできれば、あえて「身体表現性障害」という呼称を覚える必要はない。

  かつて内科医は「自律神経失調症」という病名をよく用いていた。身体に明らかな病変を認めないにもかかわらず身体愁訴を訴える患者において,精神面については鑑別診断を十分に考えていないにもかかわらず診断が付いたような気になれるという便利さと心地好さがあったようである。しかしこの病名の安易な使用は,背景にあるうつ病などの精神疾患の鑑別をなおざりにし,時に身体疾患の厳密な鑑別さえ失わせてきた。最近,「身体表現性障害」という呼称をあちらこちらで目にするにつけ,「自律神経失調症」の二の舞になってはいけないと危倶する。「身体表現性障害」という呼称を,診断基準を厳密に適用せずに用いることは不適切な臨床につながる。一方,「身体表現性障害」を適切に理解すればするほど,あまり臨床で役立つとはいえない用語であると分かる可能性もある。

  「身体表現性障害」という呼称が頻用されるようになったのは,アメリカ精神医学会が出した精神疾患の診断基準であるDSM-III(1980)からである。DSM-IIIは診断を科学的にするという目標の下,それまで精神科医が慣れ親しんできた「神経症」という診断名を廃した。
  「やっばり精神医学は分からない学問である」と考えられることを恐れずにあえて言えば、この変革が「精神科診断学の進歩であった」と言えるかどうかは,今なお意見が分かれるところであろう。ただ「神経症の消失の結果として現れたものの1つが身体表現性障害である」という点は身体表現性障害を把握するうえで重要である。
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